歯周病とインプラント

歯周病とインプラントの関係について説明いたします。

歯周病患者にインプラント治療をしても大丈夫?

インプラントは虫歯にはなりませんが、歯周病(正確にはインプラント周囲炎)になることがあります。

歯周病改善後の患者のインプラント治療の結果は安定していることが、いくつかの研究で示されています。 ( Nevins & Langer 1995 ; Ellegaard et al. 1997

しかし、健康な人に比べると治っていない歯周病患者のインプラントの成功率は劣るという報告があります。(Hardt et al.(2002 )Karoussis et al.(2003 ) )

また、歯周病患者の残存歯の歯周ポケット内の細菌の構成と、インプラント周囲のポケット内の細菌の構成は似ていることが確認されています。(Papaioannou et al. 1996 ; De Boever et al. 2006 )

これは、残存歯周囲の細菌がインプラント周囲に移り住んでいる可能性を示唆しています。

まとめ

  • インプラント治療の前には歯周病の検査を行う必要があります。
  • もしも歯周病に罹患している場合には厳密な歯周病の治療の後、インプラント治療が可能かどうか判断する必要があります。
  • また、天然歯とインプラントの安定した経過のためにはメインテナンス(定期検診)も欠かせません。

歯周病改善後の患者のインプラント治療の経過

歯周病改善後の患者のインプラント治療の結果は安定していることが、いくつかの研究で示されています。

Nevins と Langer(1995) の研究では、 1985 年から 1992 年の間に難治性の歯周病患者に歯周病専門医が歯周病治療をした後、 309 本のインプラントを埋入しています。

その後の経過は、
下顎:132本中4本のインプラントが失敗→ 成功率:97%
上顎:177本中3本のインプラントが失敗→ 成功率:98%

彼らはこの結果から、歯周病に対する感受性の高い患者に対してもインプラント治療は成功したと結論付けています。

Ellegaardら (1997) の研究では、歯周病患者 75 人に 124 本のインプラントを埋入しています。このうち、 3 ~ 84 ヶ月の観察期間で 3 本のインプラントを喪失しています。彼らはこの結果から、歯を支える骨を大きく失った歯周病患者においてもインプラント治療は成功する、と述べています。

以上2つの研究の結果は、インプラント治療の前に徹底的な歯周病治療を行うことが重要な前提です。

健康な人に比べると、治っていない歯周病患者のインプラントの成功率は劣る

その一方、健康な人に比べると治っていない歯周病患者のインプラントの成功率は劣るという報告があります。

Hardt ら(2002 ) の研究によると、 346 本のインプラントを 5 年間観察した結果、健康な人のグループにおけるインプラントの失敗率が 3 %であったのに対し、歯周病患者のグループではインプラントの失敗率が 8 %でした。彼らは、歯周病患者ではインプラント治療の失敗率が増加するかもしれないと結論付けています。

また Karoussis ら(2003 ) の研究では、歯周病患者と健康な人のグループ間で 10 年後のインプラントの生存率を比較しています。

歯周病患者のグループ:
患者8人 インプラント21本 生存率 90.5%

健康な人のグループ:
患者45人 インプラント91本 生存率 96.5%

という結果でした。

このように、歯周病患者におけるインプラント治療は5年、10年経過した後も90%以上の生存率が期待できますが、健康な人に比べるとその値は劣るようです。

このため歯周病患者においては、徹底的な歯周病治療の後にインプラント治療を行うかどうかの判断が必要になります。

またインプラント治療を行った場合には、健康な人以上に厳密なメインテナンスが必要になります。

歯周病菌がインプラント周囲に移り住む?

歯周病患者の残存歯の歯周ポケット内の細菌の構成と、インプラント周囲のポケット内の細菌の構成は非常に似ていることが確認されています。

これは、残存歯周囲の細菌がインプラント周囲に移り住んでいる可能性を示唆しています。

Papaioannou et al. 1996 らは6人の歯周病患者の天然歯とインプラント周囲からプラーク(歯垢)のサンプルを採取し、細菌の構成を調べました。

その結果、天然歯とインプラント周囲の細菌の構成に著しい類似を確認しました。

このことから彼らは、天然歯周囲のポケットはインプラント周囲細菌の供給源であると考え、インプラント治療を行う場合には天然歯の歯周病の改善が重要であると結論付けました。

De Boever et al. 2006 は、重度歯周病の治療を受けた患者22人に68本のインプラントを埋入し、その周囲ポケット内の細菌の構成の変化を調べました。

その結果、インプラント周囲では埋入後ただちに天然歯周囲と構成の類似した細菌のコロニーが形成されました。

しかし、この細菌の構成は6ヶ月の観察期間中はぼ変化せず、インプラント周囲に歯周病(インプラント周囲炎)を引き起こすこともありませんでした。

著者らは、歯周病患者にインプラントを埋入した場合、インプラント周囲に歯周病菌が繁殖することは避けられないが、徹底したプラークコントロール(口腔清掃)によりインプラントを健康に保つことができたと結論付けています。

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